繊研新聞に代表取締役大森智人のインタビュー記事が掲載されました。
繊維研新聞紙面p6 掲載 [2020年11月20日(金)発行]
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https://senken.co.jp/articles/f1fee715-d749-4789-80fb-c357480c41b9
【パーソン】アイエント社長 大森智人さん リアルとオンラインの垣根をなくす
OMO(オンラインとオフラインの融合)ソリューションを手掛けるアイエント(東京)はファッション業界を中心に、リアルとオンラインの垣根をなくすDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めている。新型コロナウイルス感染症拡大で計画が鈍化した部分もあるが、9月には店舗向けSaaS型伝票レスシステム「ポッポ」を本格稼働した。「コロナ禍をチャンス」と捉えて、コロナ対策にも対応できる多様なシステムを構築している。
後れている業界のIT化
――「ポッポ」開発のきっかけは。
マッシュスタイルラボの人と話す機会があり、「世間一般的にはIT化が進んでいるが、アパレルの店舗スタッフの作業は何一つ変わっていない」と聞いたことです。これは学生のリクルートにも影響し、ITにたけている若い世代にはアナログのままでは魅力に感じないようです。「業界にとってもITの活用は必要」な状況を知り、ECサイトが進む一方で店頭として何ができるかを考え、ペーパーレス化に行きつきました。
店舗では商品の取り置きや取り寄せ、お直し、入荷通知などお客様に渡す紙伝票が多い。これを店舗が運営するアプリに置き換えて、お客様にはSNS通知されることで、商品入荷情報などを自動で通知できる。これまでの手書き作業や電話掛けなどの手間が省けるシステムです。SaaS型で提供するので、ショップ導入のハードルは圧倒的に低いのも特徴です。
3月ごろから開発を始め、7月までに骨子ができましたが、そのころはコロナ禍。当初にはなかった「密」を避ける要素も付加しました。顧客との連絡手段としても利用可能で、例えばフィッティングルームの空き時間を待つ顧客にSNSで通知を行い、店内の混雑を回避することができます。顧客にとっても密を避けるとともに、時間の有効活用ができます。
――システム稼働の状況は。
システムはマッシュスタイルラボの新宿のフレイアイディーとスナイデル店で、現場のニーズも聞きながら構築しました。8月下旬から2店にテスト導入し、9月から本格運用を開始しました。商品入荷通知は1カ月平均約200人に行い、ペーパーレス化が進んでいます。店長に話を聞くと、お客様から「伝票をもらわずにアプリ通知が来るのでびっくりされた」などの好反応が得られています。マッシュスタイルラボでは、ほかの店舗への導入準備も進んでいます。
ポッポは単なるペーパーレス化ではありません。取り寄せなどの顧客情報はブランドやアイテム単位などのリポート機能があり、商品分析とともに購買成約率などの数字が可視化されます。顧客とマーケティングデータは大きな武器で、企業や店舗戦略に生かせるものです。各ショップで顧客データなどをまとめる作業がなくなり、圧倒的に手間が省けて正確なものが構築されていきます。実際、店長の感触は良いですね。
――今後の展開は。
ファッション業界でも自社アプリを開発し、顧客との連絡やプロモーションに活用しようとしています。しかし、成功している企業は少ない。アプリを維持するにはOSの更新などのコストもかかります。アプリをインストールしてもらうことも大変で、特典やクーポン発行など、顧客に使い続けてもらうことにも労力とコストがかかります。
ポッポはSaaS型で、利用料金は月額3000円(1ショップ)ほどで、多様なサービスが受けられます。開発にはマッシュスタイルラボの協力がありましたが、「業界全体の問題なので、ほかにも広めて欲しい」と、システムを拡充していくことで料金を抑えています。
大手ディベロッパーとの取り組みも進んいます。まずはファッション業界に広め、さらに紙伝票が多いクリーニングや靴などのリペアなどへの拡大を視野に入れています。飲食店にも広めたいですね。そのために、リテールテック事業の総合窓口として大手企業との販売代行が決まり、システム拡販に向けての営業体制が整いました。オリジナル伝票や封筒作成料金より低コストでコスト削減になり、ペーパーレス化による環境問題対策としても有効なシステムです。あらゆる業界のデジタル化活用に寄与していきたいと考えています。
手間を省いて時間は効率的に
――創業から10年になった。
〝社会の当たり前に風穴を開ける〟との思いで起業し、現在も同じ考えで行っています。色々なサービスを提供してきましたが、ようやく世の中が近付いてきた感覚です。ブランディングプラットフォーム「スタイリア」はメディアにPRしたいアパレルと洋服やアクセサリーをリースしたいスタイリストをオンラインショールームでつなぐものです。アパレルとスタイリストの双方にメリットがあり、スタイリストはウェブ上で商品が探せてプレスルームなどに出向かなくてもよい。リースできる企業も広がります。
スタリスト登録は年々増え、762人になりました(11月現在)。特に新型コロナの緊急事態宣言発令後は、ショップの閉鎖などで借りに行けない状況でしたので、一気に登録数が増えました。一方で、テレビや映画の撮影も中止や延期となるなどで、リース自体のニーズが減少した時期もありました。しかし、スタイリアの利便性や人と接触する機会が減少できる衣装レンタルのニーズは広まったと思っています。
現在、ウェブショールームにはブランド数が約500、4540点の商品があります。スタイリアの利用をさらに促進するためには商品数を増やすことが大事です。コロナ禍でコストがかけられない企業向けに、固定費のないトライアルの無料プランも始めました。スタイリストからの採用があった場合の成果報酬型です。
9年目になる「コレカウ」は、テレビに出てきた芸能人の衣装が見つかるファッション系コミュニティーサイトです。ユーザーからの質問に別のユーザーが回答するほか、ファッションハンターと呼ばれる調査員が回答しています。気になるアイテムを探すことができ、視聴者の関心が高いアイテムや芸能人のデータが蓄積される。ヤフー検索との連携も始まり、データ提供や検索内に商品情報を表示するなどが進んでいます。
――新事業も進んでいる。
19年11月から、外国人旅行者向け免税ECアプリ「TaxFreeOnline」(TFO)を稼働しました。免税品をネットで注文し、ホテルや街の免税店、空港で商品を受け取り、免税価格前提でのパッケージ商品を購入できるサービスです。これまでの免税店はリアル店のみの制度でしたが、国税局で日本初の許認可を取得して特許も取得済みです。
インバウンドが大幅な増加傾向にあり、観光客にとって買い物に多くの時間を要し、観光にかける時間が短くなっているという課題を解消するものとして、消費行動の活発化を促して経済に貢献できるものと期待していました。
しかし、コロナ禍の影響で、インバウンド需要は99・9%以下に激変し、お客様がいない状況。ですが、このまま終わるわけではなく、無駄とは思っていません。コロナ禍前の状況には戻らないと考えられ、日本のインバウンド復活に合わせて有効なシステムです。TFOは非接触型で免税手続きができ、店舗の密を避けることもできる。アフターコロナの新しい買い物の提案と考えています。このインバウンド事業は大手商社と組んで、世界中に広める戦略を進めています。
――今後の取り組みは。
オンラインの活用で、「いかに手間が省け、時間を効率的に使えるか」の視点で、取り組んでいきます。コロナ禍への対応で付加した機能もあり、利便性は向上しています。リアルとオンラインの垣根をなくし、オフラインでできないことをオンラインでやるなど、融合したものを追求していきます。
最近、あるOEM(相手先ブランドによる生産)企業のホームページ(HP)を作成しました。HPもなかった企業ですが、コロナ禍でオンライン受注などの必要性を感じて相談がありました。ITに関心が向いたことはプラスです。IT活用はこれまでの「あったらいいな」「便利だな」から、「やらないといけない」「なくてはならない時代」になってきています。多くのIT企業が参入し、競争も激しくなると思います。当社は単なる技術屋ではなく、プロダクトを持っていることが強みです。強みを生かして、ファッション業界や他産業も含めて盛り上げていきます。
おおもり・ともひと 1966年栃木県生まれ。インクスでシステムコンサルタントとして製造業向けプロセス改善に関わる。05年楽天に移り、08年開発理事に就任、新サービス立ち上げやシステム開発現場共通の品質管理、開発効率化を担当。11年にアイエントを設立。
■アイエント 11年3月にITを活用したベンチャー企業として大森社長の自宅で創業。同年7月には東京・青山にオフィスを移転、15年7月に現在の渋谷区神宮前に本社を構える。ファッション業界の「当たり前」や「常識」にとらわれずに、利便性や「あったらいいな」に応えるシステムを提供している。現在、メーカーとスタイリストをつなぐウェブリースシステムなどのPRプラットフォーム事業、今年から稼働した「ポッポ」のリテールテック事業、今後に向けたインバウンド事業で構成する。「考えるために動く」「変化と継続の調和」「知恵比べをする」「瞬発力第一」「物事を逆さに捉える」を行動指針に、常に新しいことにチャレンジしている。
《記者メモ》
異業種からファッション業界に参入し、初めは業界の固定観念が強く、新しいシステムやサービスを提案することも大変だったという。ようやくITやオンラインの活用が「避けては通れない」時代となり、より存在感を発揮している。コロナ禍で4月からリモート勤務となったが、そこはもともと得意な分野。オンラインを使い、便利でコロナ対策にも必要なシステム開発に邁進(まいしん)している。
システムは「これができたら便利」「なぜ、できないのか」などを探求し、開発につなげている。様々な縁があったから、多様なシステムができたというように、コミュニケーションを図るなかからもヒントを得ている。そして、賛同するパートナーにも説得力をもって広めている。
企業から依頼を受けて、システム構築や保守点検を請け負うのも一つだが、大森社長は世の中を良くしたいという思いが強い。これからも業界を盛り上げていってくれることを期待している。(古川伸広)